IEC60204-1電気安全設計が知っておくべきリスクアセスメントと機械に採用できる電気部品(CDF, Constructional Data File)を解説します

あらすじ

こんにちは!

今日は、機械の電気装置に関する国際規格であるIEC 60204-1 についてお話しします。この規格は、機械の安全性を確保するために必要な電気的な危険源に対する対策を規定しています。

IEC60204-1とは

IEC60204-1とは、「機械類の安全性−機械の電気装置−第1部:一般要求事項」という題名がついています。この規格は、稼働中に手で運べないような大きさや重さの機械や連結された一群の機械に用いる電気・電子・プログラマブル電子の装置やシステムに適用されます。

この規格では、以下の3つの目的を達成するための要求事項が記載されています。

  • 人と財産(装置、機器、部材等)の安全(safety of persons and property)
  • 制御応答の一貫性(consistency of control response)
  • 操作及び保全の容易性(ease of operation and maintenance)

つまり、この規格では、「感電」や「火災」などの事故を防止するだけでなく、「制御が意図した通りに動作すること」や「人間工学的な操作性」や「メンテナンスしやすさ」も考えられています。

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目次

IEC 60204-1:2016 とは

IEC 60204-1 とは下記の題名がついています。ここには、機械の電気装置についての安全要求が記述されています。

機械類の安全性−機械の電気装置− 第1部:一般要求事項
Safety of machinery-Electrical equipment of machines- Part 1: General requirements

この規格はB 規格になり、機械指令と低電圧指令の両方の整合規格です。

IEC 60204-1 はJIS 規格 JIS B 9960-1:2019 と整合化され対訳されています。

規格の体系についてはこちらの記事をご覧ください。

EN 60204-1:2018 との関係

EN 規格に新しくEN 60204-1:2018 が加わりました。旧規格であるEN 60204-1:2006+A1:2009 は失効します。

EN 60204-1:2006+A1:2009 失効日

EN 60204-1:2006+A1:2009 は失効しています。

第三者認証機関で認証された機械など、必要に応じて旧版からの差分を再評価・再リスクアセスメントをおこないます。

機械指令 2021年10月2日に失効
低電圧指令 2021年5月27日に失効

失効したからといって、旧版が使えなくなるわけではありません。第三者認証機関からの求めや、大きく安全防護装置や安全機能を変更した場合に、規格更新の作業が必要になります。その際は旧版と現行版との差分(デビエーション)を評価し、旧版のテクニカルファイルに追加しておきます。

新しいIEC 60204-1:2016 の変更点

新しいIEC 60204-1:2016 では、旧判の2006+A1:2009 年度版に比べて、主に下記の点が大きく変わったと記しています。

変更点

a) 駆動システム (PDS) のアプリケーションに対する要求事項を加えた

b) 電磁両立性(EMC)に対する要求事項を変更した

c) 過電流保護に対する要求事項を明確にした

d) 短絡電流定格 (SCCR) の決定に対する要求事項を変更した

e) 保護ボンディングに対する要求事項及び用語を変更した

f) PDS のセーフトルクオフ,非常停止及び制御回路保護を含めて,箇条9 の再検討及び見直しを行った

g) 制御機器のアクチュエータのための記号を変更した

h) 技術文書の要求事項を変更した

i) 国別の特別な規則,規定及び参考文献に対する通常の改正を行った

f) PDSのセーフトルクオフSTO (Safe Torque Off) の追加の変更が重要です。安全回路設計において、非常停止回路や保護インターロック回路を設計する場合に影響があります。従来からSTO の技術が旧版に先行してありましたが、新版で技術が追いついた感じです。

ジュンイチロウ

具体的にはどういうことですか?

中の人

PDS (インバーターやサーボドライバー)の安全機能を使って無接点でモーターを安全に停止させる技術です。
マグネットとよばれる電磁接触器などを削減できます。

JIS ハンドブック 72 機械安全(2022) [ 日本規格協会 ]
リスクアセスメント担当者や機械・電気回路設計者・EHS担当者にとって重要な規格が網羅されていて必携です。

JIS ハンドブック 72 機械安全
JIS ハンドブック 72 機械安全

1章 適用範囲

どんな規格にも必ずスコープと呼ばれる、その規格の適用範囲と言葉の定義があります。IEC 60204-1 の適用範囲は下記のように定義されています。

1章 適用範囲

適用範囲

この規格は,稼働中には手で運搬できない機械に用いる電気,電子及びプログラマブル電子の,装置及びシステムに適用する。連携して稼働する一群の機械も適用範囲に含む。

この規格は,公称電源電圧が交流1 000 V以下,直流1 500 V以下,公称周波数200 Hz以下で作動する電気装置に適用する。

「機械」の定義

1章 適用範囲の要求の中で「機械」という言葉が出てきます。機械の定義は ISO 12100 (3.1 項)、または、機械指令 2006/42/EC (第2条 (a)) に記述されています。

中の人

「機械の定義」は使いやすい方を選びます

それぞれの「機械の定義」

ISO 12100 での機械の定義

連結された部品又はコンポーネントで構成される駆動部分を備え、又は備えることを意図したものであって、構成要素である連結部品又はコンポーネントのうち、少なくとも一つは、特定の目的のために稼働し、かつ、協働するもの

機械指令での機械の定義

人力または動物を直接の動力源とするもの以外の駆動系に取り付けたり、取り付けることを意図されたもので、少なくとも一つのパーツまたは部品は可動であって、特定用途のために組み合わせられる接続パーツまたは部品の集まり

中の人

IEC 60204-1 は電気系万能に使える規格ではありません。
〇〇測定器みたいな装置は IEC 61010-1 で評価することが多いです。

IEC 60204-1 の目次

IEC 60204-1 で実際に使うところは4 章から18 章までです。

4章 一般要求事項
5章 入力電源導体の接続,断路器及び開路用機器
6章 感電保護
7章 装置の保護
8章 等電位ボンディング
9章 制御回路
10章 オペレータインタフェース及び機械に取り付けた制御機器
11章 コントロールギヤ:配置,取付け及びエンクロージャ
12章 導体及びケーブル
13章 配線
14章 電動機及び関連装置
15章 コンセント及び照明
16章 一般
17章 技術文書
18章 検証

4 章 一般要求事項

IEC60204-1 4.1 項は、機械の安全に関する電気設備の一般要求事項を定めたものです。この項目では、機械のリスクアセスメントの方法や内容、電気設備の設計や選定、保護措置や警告表示などについて規定されています。この項目は、機械の安全性を確保するための基本的な概念を示していると言えます。したがって、この項目を読んで理解することは、機械の電気設備に関する知識や技能を身につける上で重要です。しかし、この項目だけで十分というわけではありません。実際に機械の電気設備を設計や運用する際には、IEC60204-1 の他の項目や関連する規格や法令も遵守しなければなりません。また、機械全体のリスクアセスメントは、電気設備だけでなく、機械的や熱的な要因も考慮しなければなりません。このような複雑なリスクアセスメントを行うことが難しい場合には、第三者の専門家に依頼することも一つの選択肢です。第三者に依頼することで、客観的かつ専門的な視点からリスクアセスメントを行うことができます。ただし、第三者に依頼する場合には、その費用や信頼性なども考慮しなければなりません。

リスクアセスメントはこちら記事をご覧ください。

4.1 項 一般

4.1項 一般

この規格は,機械の電気装置に関する要求事項を規定している。電気装置関連の危険源によるリスクは,機械のリスクアセスメントの全要求事項の一部として評価しなければならない。

これは危険源にさらされる人のために次のことを行うことである。

− リスク低減の必要性を特定する

− 適切なリスク低減を決定する

− 必要な保護方策を決定する

IEC60204-1 4.1項の趣旨は、機械のリスクアセスメントをIEC 60204-1 のみを用いて実施するということは、機械全体から考えると電気装置の側面から引き起こされる危険源をアセスメントしているだけであって、本来のリスクアセスメントとしては一部分のみであり不十分ということです。このことは、IEC 60204-1 の適用範囲にも明記されています。したがって、機械のリスクアセスメントは、電気装置に限らず、機械的、熱的、放射などの危険源も含めて、機械全体の観点から行う必要があります。そのためには、IEC 60204-1 に加えて、IEC 12100 や ISO 14121-2 などのリスクアセスメントに関する規格を参照することが望ましいです。これらの規格は、リスクアセスメントのプロセスや方法論を詳しく説明しており、機械の安全性を向上させるための有用なガイドラインとなります。

リスクアセスメントの手法はISO 12100 に従い、リスクの低減策は3ステップと呼ばれる安全方策に従います。

リスク評価とリスク低減の反復プロセス
リスク評価とリスク低減の反復プロセス

ISO 12100 では危険源の種類を附属書B で10 個に分けて説明しています。機械のリスクアセスメントは電気的危険源のみならず、機械や騒音、振動、放射なども含んでいます。下記に電気的危険源の危険状態・危険事象の例をあげます。

ISO 12100 電気的危険源

ISO 12100 機械類の制限の決定と危険源の同定については下記記事をご覧ください。

no.危険源の例no.結果
Aアーク1やけど
B電磁気現象2科学的影響
C静電現象3体内医療機器への影響
D充電部4感電死
E高圧下の充電部に対する距離の不足5墜落、投げ出される
F過負荷6火災
G不具合(障害)条件下で充電状態になる部分7溶融物の放出
H短絡8感電
I熱放射
ISO 12100 電気的危険源の危険源、危険状態、および、危険事象の例の表

この表の見方は、原因から結果へと読みます。危険源を最もシンプルな方法で記述するために、適切な言葉を選択し、組み合わせて読むことがポイントです。以下は例です

【原因】オペレーターが充電部に触った結果【結果】感電

【原因】オペレーターが充電部に触った結果【結果】やけど

機械の設計者やその使用者は、ISO 12100 リスクアセスメントシートを使って危険源を簡易的に表すことがあります。この場合、ISO 12100 附属書B 表の記号を用いて指定する方法がよく使われます。

【原因】オペレーターが充電部に触った結果 【結果】感電死 →【D4】

【原因】オペレーターが充電部に触った結果 【結果】やけど →【D1】

IEC 60204-1 で想定される電気的危険源

IEC 60204-1 では電気的危険源のについてさらに詳しく説明されています。下記にその代表例をあげますが、これらに限定されるわけではありません。

IEC 60204-1 で想定される電気的危険源
  • 電気機器の故障・障害
  • 制御回路の故障・障害
  • 電源の外乱・中断や電源回路の故障・障害
  • 安全機能の故障を誘発する回路
  • 電磁気・静電気などの電気的妨害
  • 蓄積エネルギーの放出
  • 予期しない起動
  • 騒音や機械振動
  • 表面温度

電気的側面における装置や機器のリスクは機械のリスクアセスメントの一部です。IEC 60204-1 電気的危険源の例から、具体的に以下のような危険事象が引き起こされることが予想できます。

  • 電気機器の故障はオペレーターへの感電を引き起こす
  • 制御回路の故障は機械の機能不良を引き起こす
  • 電源の変動や停電は機械の機能不良引き起こす
  • 接点の故障は安全機能の故障を引き起こす
  • 電磁波(EMC, Electromagnetic Compatible) の暴露は機械の機能不良を引き起こす
  • 蓄積エネルギーの開放は機械の予期せぬ起動を引き起こす
  • 大きな騒音はオペレーターの聴覚障害を引き起こす
  • 高温表面はオペレーターのやけどを引き起こす

これらのように、リスクアセスメントによって機械の電気的危険源が同定され、その結果危険事象が想定される場合、電気回路設計者や機械の使用者は安全方策を行う必要があります。

ISO 12100 リスク低減方法

ISO 12100 では機械の設計者やその使用者がリスクアセスメントを実施して、彼らがそのリスクが受け入れることが不可能な場合はリスク低減策を行います。ISO 12100 ではその低減策の方法を3 ステップメソッドと呼んでいます。

リスク低減方法は、危険源を除去するか、または、次の2つの要素(危害のひどさ、もしくは、危害の発生確率)を個別に、もしくは、同時に低減します。

リスク risk とは

ISO 12100 ではリスク risk を説明しています。

リスク risk

危害の発生確率と危害のひどさの組み合わせ

リスクの要素

機械のリスク低減方法は機械の機械的危険源でも電気的危険源でもリスクの低減方法は変わりません。「危害のひどさ」を低減するか、または、「危害の発生確率」を低減するかのいずれか、もしくは、両方です。

ジュンイチロウ

「危害のひどさ」はどういう対策をしたときに減らすことができますか?

中の人

「危害のひどさ」はステップ1 本質安全設計をしたときに減らすことが多いです

3ステップメソッド

STEP
本質安全設計

機械と人間の相互作用に関する設計特性を適切に選択する

危険源を取り除く

STEP
安全防護 付加保護方策

ガード

インターロック

STEP
使用上の情報

機械に警告表示、信号、警報装置

取扱説明書

例えば、【原因 オペレーターがむき出しの充電部(交流400V)に触った】結果、【結果 感電する】場合が存在した場合の3ステップリスク低減方法は下記が想定されます。

STEP
本質安全設計

例 交流400V の電圧を25V 以下にする → 危険源を取り除く

STEP
安全防護 付加保護方策

例 むき出しの充電部を囲う → 発生確率をさげる

STEP
使用上の情報

例 感電の警告ラベル(シール)を貼る

機械を設計する際には、まず「本質安全設計」や「安全防護 付加保護方策」を行うことが求められます。しかし、これらの対策なしに、「使用上の情報」の警告ラベルを貼ることがあります。いきなりラベルを貼ることは推奨できません。

この写真はNGの例です。メインブレーカーで電気を切らなくても、後ろのふたを簡単に開けられる電気エンクロージャーです。工具がなくても、手でネジを回せます。しかし、そうすると、電気ボックスの中の危険な電気に触れることがあります 。

このような設計は、機械の安全性を著しく低下させるだけでなく、使用者に重大な事故や怪我のリスクをもたらします。警告ラベルは、本質安全設計や安全防護 付加保護方策の補助的な役割しか果たせません。ラベルだけでは、使用者の注意や判断に頼ることになりますが、それは人間の誤りや不注意によって無効化される可能性が高いからです。したがって、機械を設計する際には、まずは可能な限り危険源を排除したり隔離したりすることを優先すべきです。その上で、必要に応じて警告ラベルを適切に配置することが望ましいです。

メインブレーカーで断路しなくても、カバーを開くことができ、内部の電気的危険源にアクセスすることができる電気エンクロージャー
メインブレーカーで断路しなくても、カバーを開くことができ、内部の電気的危険源にアクセスすることができる電気エンクロージャーの写真

4.2 項 装置の選択 

IEC 60204-1 に適合するためには、電気部品の選択が重要です。CE マーク付きの部品を購入することで、安全性や品質が保証されます。CE マークは、EUで認められた基準に適合していることを示すマークです。CE マーク付きの部品を使用することで、IEC 60204-1 の要求事項を満たすことができます。

また、電気部品の選択にあたっては、CDF (Constructional Data File) を作成することも忘れてはなりません。CDF は、電気機器の設計や製造に関する文書や証明書をまとめたファイルです。CDF を作成することで、電気機器がIEC 60204-1 に適合していることを証明することができます。CDF は、検査や監査の際に必要となる重要な資料です。

電気部品の選択を間違えると、電気機器の安全性や性能に影響を及ぼすだけでなく、IEC 60204-1 に適合しない可能性があります。その場合、電気機器の販売や輸出ができなくなる恐れがあります。したがって、電気部品の選択は最初から慎重に行う必要があります。

4.2項 装置の選択

4.2.1 一般

機械の電気装置に用いる電気部品及び電気機器は,次の全てを満足しなければならない。

− 意図する使用に適している。

− 関連する日本工業規格又はIEC 規格がある場合は,それらに適合する。

− 供給者の使用上の指示に従って用いる。

原本の英語では、下記のように書かれています。

4.2.1 General

Electrical components and devices shall:

– be suitable for their intended use; and

– conform to relevant IEC standards where such exist; and

– be applied in accordance with the supplier’s instructions.

規格の意味を考える時は英語の原本に戻ります

shall の意味

IEC 60204-1 を読み解くにあたって、shall という単語があります。日本語で置き換えると、この単語を翻訳しにくいのですが、意味合いとして shall は「絶対やれ!」と強い義務と強制力をもっている意味の助動詞です。

この規格は、機械の電気装置に関する安全性を確保するための一般要求事項を規定しています。その中で、shall が使われている箇所は、必ず守らなければならない事項を示しています。例えば、次のような文があります。

  • 電気装置 shall 適切な選択、設計、製作、組立、検査、試験及び取り扱いにより、安全性を確保するようにする。(4.1)
  • 電源断路器 shall オフ(断路)位置にロックできる手段(たとえば,南京錠)を備えている。(5.3.1.2)
  • 基本保護 shall 充電部への人体または身体の一部の接触による感電から保護する。(6.2)

これらの文は、電気装置の設計者や製造者や使用者に対して、強く求められている事項を表しています。もし、これらの事項を無視したり、不十分に実施したりした場合は、電気装置の安全性が損なわれたり、法的な責任を問われたりする可能性があるかもしれません。したがって、IEC 60204-1 を適用する際には、shall が使われている箇所に注意を払い、その内容を正しく理解し、遵守することが重要です。

意図する使用

最初の段落には「意図する使用に適している」と書かれています。意図する用途とは、機械指令2006/42/EC では下記のように説明されています。

意図する使用 

取扱説明書で記述された情報に従った、機械類の使用をいう

「意図する使用」とは機械や電気装置に使われる電気部品の使用目的を含む限界を意味します。例えば、金属加工を目的とした機械の製造者は、通常、木材を安全に加工するための機械を設計しておらず、その逆もまた同様です。例えば、移動式昇降作業台の製造者は、通常、その機械をクレーンとして安全に使用するための設計を行っていません。

特に、機械や電気部品の安全な使用が依存するパラメーターやその限界は、正確に規定されなければなりません。このようなパラメーターは、例えば、機械を持ち上げる際の最大荷重、移動式機械を安定性を損なうことなく使用できる最大傾斜、工作機械で安全に加工できるワークの最大寸法と材料の種類などが含まれます。

「意図する使用」はリスクアセスメント ISO 12100 で規定される、最初のステップ「機械制限の決定」と同じ意味です。機械や電気装置に使われる電気部品の使用目的を含むそれらの限界を決定することです。

conform to の意味

英語版では第二段落目に conform to と記述しています。JIS 版では conform to に該当するところは「それらに適合する」と記述されています。この表現は、この規格が定める要求事項に対して、電気機器が満たすべき条件を示しています。つまり、この規格に適合するということは、この規格が定める要求事項をすべて満たすということです。

このIEC 60204-1 の規格のみならず、どんな規格においても、 conform という単語は shall と同じくらい気を付けて読みます。重要なキーワードです。規格では「適合する」を意味する単語として、conform, meet, satisfy, comply, fit などをよく使います。その中でも conform は最も義務をもった意味をもつ「適合」という意味です。したがって、この単語が使われる場合は、その規格に適合しなければならないという強い意志が表されていると考えるべきです。

conform

意味・対訳
従う、一致する、国教を遵奉(じゆんぽう)する

引用 Weblio

第二文の「Electrical components and devices shall conform to relevant IEC standards where such exist」の意味は、「電気部品と電気機器は、適切なIEC 規格がある場合は、(強制的に)適合しなければならない」ということです。つまり、電気部品と電気機器は、品質やリスク管理のために、IEC 規格に沿った性能や仕様を持たなければならないという要求事項です。IEC 規格に適合することで、製品の安全性や信頼性を高めることができます。

適合と準拠

「適合」と「準拠」は日本語では同じ意味に聞こえますが、規格では意味が全く違うものとして考えます。準拠を英語で考えるときは comply を使います。

comply

意味・対訳
応じる、従う

引用 Weblio

「準拠」は一部分は要求に従っているが、全体から考えると要求100% に従っていないという意味です。時々「CE 準拠品」という部品、機器、材料を見かけます。これら「CE 準拠品」はIEC 60204-1 の要求 shall conform していません。つまり、「CE 準拠品」はIEC 60204-1 においては使用できないということです。

このような「CE 準拠品」の存在は、消費者や業界にとって混乱を招くだけでなく、安全性や信頼性にも問題を引き起こす可能性があります。「CE 準拠品」はIEC 60204-1 の要求に完全に従っていることを証明する必要があります。

「CE 準拠品」は一見便利なように見えますが、実際にはIEC 60204-1 の要求に従っていない場合が多くあります。そのため、「CE 準拠品」を使用する前には、その証明方法や適合性を十分に確認することが必要です。そうしないと、電気機器の安全性や信頼性が損なわれる恐れがあります。

準拠と適合のイメージ
準拠と適合のイメージ

「準拠」とは、規格の要求をよりどころとして、それに従うこと

「適合」とは、規格の要求にピッタリ当てはまること

第二番目の段落には下記のように書かれています。

関連するIEC に規格がある場合は、それらに適合する

この文章から機械に使用される電気部品は、IEC 規格に適合していることが求められます。機械に使用される電気部品はIEC 規格に基づいて何かしらの客観的な安全性の証明がされているということです。何かしらの客観的な安全性の証明とは下記のいずれかが該当します。

客観的な安全性の証明とは
  • 第三者認証機関で認証されている
  • CBレポートが発行されている
  • 自己宣言されて、かつ、テストレポートが作成されている

これらの方法は、それぞれメリットとデメリットがあります。CE マークは、欧州市場へのアクセスを容易にする一方で、マークの取得にはコストや時間がかかります。第三者機関の認証は、信頼性が高い一方で、認証機関の選定や審査プロセスには注意が必要です。自己宣言は、コストや時間を節約できる一方で、自己責任で製品の安全性を保証しなければなりません。

したがって、機械に使用される電気部品のIEC 規格への適合性を確保するためには、製品の特性や市場の要求に応じて、最適な方法を選択する必要があります。

機械の安全関連部 (SRP/CS, Safety Related of Control Systems) に関する部品は第三者認証機関 (NB, Notified Body) で認証されていることが必要です。(メーカーが自己認証するかたちで、メーカーが自己宣言されている場合もあります。)この要求は機械指令の第2 条(c) の要求からに基づき、具体的には機械指令の附属書V に例示されています。

機械機械 第2 条(c) に規定される安全部品の例

(c) 「安全部品」とは、次の部品をいう。安全部品の例示リストは附属書V に収録している。

  • 安全機能の実現に役立つもの
  • 単独で市場に出荷されるもの
  • その部品の故障や誤動作が人の安全を危険にさらすもの、および
  • 機械類が動作するのに必要ではないか、または機械類を動作させるためにその部品に代えて通常の部品を使用できるもの
機械指令 附属書V 第2条(c) に規定される安全部品の例示リスト
  • 取り外し可能な機械的伝達装置のためのガード人の存在検知のために設計された防護装置
  • 附属書IV の項目9, 10, および11 に規定される機械類の安全防護に使用されるために設計された動力駆動式のインターロック付き可動ガード
  • 安全機能を確保するための論理ユニット
  • 機械類における危険な動作の制御を意図した故障検知のための追加的な手段を有するバルブ
  • 持ち上げ機械類における積み込みおよび動作制御に関する監視装置
  • 非常停止装置
  • 両手操作制御装置

SRP/CS に使うことができる、よく吟味された部品についてはこちらの記事をご覧ください。

ISO 13849-1 は2023 年4 月に ISO 13849-1:2023 Fourth Edition として発行されました

実務で考えるとIEC 規格に適合している部品にはCE マークが貼っていたりします

ジュンイチロウ

それは便利な見分け方ですが、CE マークを貼っていない場合とかはあるのですか?

中の人

半完成機械はCEをマークを貼りません。そういう場合は、半完成機械の宣言書やテストレポートを参考にします。

第三者認証機関で認証された部品はCoC (Certification of Conformity) という認証書が存在し、自己宣言された部品にはDoC (Declaration of Conformity) という自己宣言書が必ず存在します。まず、設計者は採用される部品がそれらの書類があるかどうか確認が必要です。この時に設計者は下記情報を確認します。

設計者が確認すべき情報
  • 定格 (電圧、電流、SCCR (Short Circuit Current Rating), 過電圧カテゴリー、保護クラスなど)
  • 安全のデーター (MTTFd, B10, B10d, DCavg, PLや PFHd など)
  • 規格の番号、規格の年号(最新のもの)
  • 認証団体
  • 認証番号

これらの情報は、CoC や DoC に記載されているべきですが、場合によっては部品のカタログや技術資料にも参照できる場合があります。設計者は、これらの情報をもとにして、部品が自分の設計する機械に適合するかどうかを判断します。また、CoC や DoC は、機械の技術文書に添付する必要があります。これらの文書は、機械の安全性を保証する重要な証拠となります。

書類はごちゃごちゃになりやすいのもあり、これらの証明する書類を一ヶ所にまとめて一覧表にします。この表がCDF です。

IEC 60204-1 に規定された部品や材料が入手できない場合や、特殊な用途に適したものがない場合があります。そのような場合は、IEC 60204-1 では、他の規格を用いて電気装置の安全性を証明することができます。例えば、UL や VDE などの団体が発行する規格です。これらの規格は、IEC 60204-1 と同等かそれ以上の安全性を保証するものである必要があります。

また、部品や材料には、UL file no. や VDE 認証マークなどの識別番号や記号が付けられていることが望ましいです。これらの情報は、リスクアセスメントの際に参考になります。もちろん、IEC 60204-1 に適合しない部品や材料を使用する場合は、その理由や根拠を明確に示す必要があります。IEC 60204-1 は、電気装置の安全性を高めるための指針であり、柔軟に適用することができます。しかし、その一方で、責任も伴います。IEC 60204-1 に適合しない部品や材料を使用する場合は、その影響やリスクを十分に考慮し、適切な対策を講じることが重要です。

ジュンイチロウ

UL 電線を欧州 (CE) 向けに使ってもいいですか?

中の人

本当はCE 電線があるので、CE 電線を使ってください。
審査官が物わかりのいい人だったらUL 電線でもいい場合がありますけど・・・・

CDF (Constructional Data File) BOM (Batch of Material)

CDF (Constructional Data File) とは、別名「重要部品リスト」と呼び、機械に使っている部品それぞれが安全性を証明する書類を持っているということをリスト化した書類です。認証機関によってはBOM (Batch of Material) と呼んだりします。どちらも同じ意味です。

この書類は、機械の安全性を評価する際に重要な役割を果たします。機械に使用されている部品の種類、型番、数量、仕様、製造元などの情報を明確にすることで、部品の適合性や互換性を確認できます。また、部品に関する安全規格や認証マークなどの情報も記載することで、部品の安全性や信頼性を証明できます。

CDF は、機械の安全性を高めるだけでなく、機械のメンテナンスや交換部品の調達にも役立ちます。機械の使用者や保守者は、CDF を参照することで、機械の状態や部品の特性を把握できます。また、部品の故障や消耗が発生した場合には、CDF を基にして適切な交換部品を選択できます。

CDF は、機械の安全性に関わる重要な書類です。機械の製造者や販売者は、CDF を作成し、提供することで、自社製品の品質や信頼性をアピールできます。また、機械の使用者や保守者は、CDF を活用することで、機械の安全性や効率性を向上させることができます。

CDF に記載したほうが良い部品

CDF に記載すべき部品として以下の部品が対象です。主にIEC 60204-1 で記載した部品は危険電圧以上の回路に存在するものと、安全回路 (SRP/CS) に採用された部品を対象としています。

電源遮断に用いるもの
  • ブレーカー、スイッチ、サーキットプロテクター、プラグ
  • ヒューズ
  • 電磁接触器
  • アレスター、サージ吸収デバイス
絶縁に用いるもの 絶縁システムを有するもの
  • 絶縁トランス
  • モーター
  • インバーター、サーボドライバー
  • スイッチング電源
  • 電線、端子台
安全目的に用いるもの 安全機能を有するもの
  • 非常停止ボタン、非常操作ハンドル
  • 安全コントローラー、安全PLC、安全リレー
  • 安全スイッチ、安全ライトカーテン、安全レーザースキャナー
  • ミラーコンタクトリレー、強制ガイドリレー
難燃性が求められるもの
  • プラスチック材 (PET 材 アクリル材)
ジュンイチロウ

スイッチング電源の二次側のDC24Vで駆動する部品までCDF に書かなきゃだめなのですか?

危険電圧以下ではオペレーターの感電が予見できないから必要ありません。

実務で危険電圧を有した基板で絶縁システムがあるものが、電気エンクロージャー内で使われている場合を見かけます。そのような基板は、例えば絶縁の検証、温度上昇の検証などがされていないかもしれません。そのような安全性の検証をされていない部品はIEC 規格に適合しているとは言えません。第三者認証機関で認証されている必要があります。

第三者認証機関とは、製品やシステムがIEC 規格やその他の規格に適合していることを客観的に評価し、証明する機関です。第三者認証機関は、製品やシステムの安全性や品質を保証する役割を果たします。第三者認証機関による認証は、製品やシステムの信頼性を高めるとともに、消費者や利用者の安心感を向上させることにも寄与します。

以上のように、自作でスイッチング電源を作った場合でも、IEC 規格に適合することが重要です。IEC 規格に適合しない場合は、製品やシステムの安全性や品質が保証されないだけでなく、市場への参入も困難になる可能性があります。自作でスイッチング電源を作る場合は、必ずIEC 規格やその他の規格に関する知識や情報を入手し、適切な試験や認証を受けるようにしましょう。

CDF の作成

CDF は、使用される部品が安全の要求を満たしていることを証拠や証明するものです。規格の要求で作成しろということが決められている訳ではありません。CDF の書き方に決まりはないですが、以下の項目を含むことが望ましいです。

  • 部品の名称、型番、仕様、製造元などの基本情報
  • 部品の機能、特性、性能などの詳細情報
  • 部品が安全の要求を満たすために必要な条件や制限などの制約事項
  • 部品が安全の要求を満たしていることを示すために行った試験
  • 部品が安全の要求を満たしていることを保証するための規格番号、第三者認証機関、認証番号
スクロールできます
Object / Part No.ManufacturerType / ModelTechnical dataStandardMark of Conformity
図面指示の番号などメーカー名など型式など電気定格や安全データーなどCoC や DoC に記載されている規格番号認証機関と認証書番号
例 14A/Breaker/NFB1Fuji ElectricBW50R30A, OVC: III, SCCR:15kAEN 60947-2:2006+A1
IEC 60947-2:2009
UL 489
TUV R: R50241624
UL file no.: E90584
20C/Emergency stop button/ESB1Fuji ElectricAR22V0LB10d=200,000EN 60947-5-1:2004+A1:2009
EN 60947-5-5:1997+A1:2005+A11:2013
TUV R: R50028146
CDF (Constructional Data File)の書き方例
Technical data 電気定格の具体例
  • 定格電圧や電流
  • 定格短絡電流 (SCCR, Short Circuit Current Rating)
  • 過電圧カテゴリー (OVC, Overvoltage Category)
  • 保護等級 (Protection Class)
  • IP等級, Open type (開放型)の情報
  • 周囲温度
Technical data 安全データーの具体例
  • PFHd, PL
  • MTTFd, B10d, B10
  • DCavg
  • NOP
  • 故障除外 (Fault Exclusion) の情報

使用上の指示

供給者の使用上の指示に従って用いる

使用する部品はメーカーが提供しているマニュアルに従います。マニュアルに従っていない使用方法は供給者(製造者)の指示に従っていないということで不適合です。

過電流保護機器を指定の場所(例 PDS (インバーターやサーボドライバー) の一次側)に設けるようにマニュアルに指示があるにもかかわらず、ブレーカーを付けていない場合などが該当します。このような方法は、部品の故障や性能低下だけでなく、火災や感電などの重大な事故につながる可能性があります。そのため、メーカーは、マニュアルに記載された使用方法を厳守することを強く推奨しています。

中の人

ブレーカーをインバーターやサーボドライバーの一次側に設けていない例が非常に多いですね


ここまで読んでくださいまして、ありがとうございました。

機械の電気回路を設計する前に、CE 対応には、使える部品、使えない部品があるということに着目してください。IEC 不適合品と前もって分かっていれば図面上の設計変更だけですみますが、電気エンクロージャーが製作された後は部品の変更が難しいかもしれません。

この記事が皆様のお役に少しでもなれば幸いです。

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